愛されている者の生活 ─ 世俗社会に生きる友のために ─ [四六判]
著者:ヘンリ・ナウエン
訳者:小渕春夫
判型:四六判並製
ページ数:168頁
本書は、あるジャーナリストとの長い友情の結果生まれたものである。世俗的な社会に暮らす友から依頼されて、「霊的生活とは何か」という問いにナウエンは応えようとする。個人的な友に宛てて書くことで、聖霊の導きを求めるすべての人に語りかけるメッセージが生まれた。
(本文より)
プロローグ:友情の始まり
この本は、長年の友情の実である。そこで読者のために、まずその友情について話したほうが役立つだろう。
十年と少し前のことだ。私がイェール大学の神学部で教えていたころ、一人の青年が研究室を訪ねて来た。『ニューヨーク・タイムズ日曜版』のコネチカット地区欄に、私のインタビュー記事を載せたいということだった。彼は自己紹介をし、フレッド・ブラットマンと名乗った。座って話し始めると、私はすぐにその人物の中に、ある種のいら立ちと、人を引きつける魅力の入り混じったものを感じた。
(略)
「どう、仕事は好きですか?」
驚いたことに、彼はあまり考えもせずに答えた。
「いえ全然。でも仕事ですから」
私はいささか率直な言葉を返した。
「好きじゃないなら、どうしてこの仕事をしているの?」
「もちろん、生活のためですよ」と彼が答えると、それ以上こちらが問うまでもなく、こう話し始めた。
「ものを書くことは本当に好きなんですが、こういう新聞の横顔欄のような短いものでは満足できないんです。自分なりに言いたいことがあっても、字数や形式に制限があり、どうしようもありません。たとえば、七五十語そこらで、あなたやあなたの考えについて、きちんとしたことが書けると思いますか。……でもそれ以外、私に何ができるでしょう。……食べてかなきゃならないですしね。それでも仕事があるだけ幸せと言うべきなんでしょう」
そう語る彼の声に、いら立ちと諦めを私は聞き取った。そのとき突然私は、フレッドは自分の夢を放棄する瀬戸際にいるという思いに打たれた。自分の本分でない仕事を強制する社会という鉄格子に入れられた囚人のように彼が見えた。彼を見つめながら、深い同情というより、あえて言葉で表わすとすれば、深い愛を感じた
[目次]
プロローグ:友情の始まり
愛されている者
愛されている者になる
1. 取り上げられる
2. 祝福される
3. 裂かれる
4. 与える
愛されている者として生きる
エピローグ:友情の深まり